佐藤 正博

佐藤正博さん近影

扇田の景観保全と有機栽培に取り組み後世に美しい自然を残す

プロフィール

佐藤 正博(さとう まさひろ)さん/昭和26年、阿蘇市波野生まれ。高校を卒業後、陸上自衛隊へ入隊。定年退職後、平成17年より就農し、扇田で有機栽培に取り組む。現在は、産山地区の公民館館長や山吹水路管理責任者なども務め、積極的に地域貢献を行っている。趣味は写真とガス窯を設置した陶芸。

きっかけ

表彰を受ける佐藤夫妻の画像高校卒業後に入隊した陸上自衛隊を平成17年に退職。定年後の人生についてはいろいろと悩みましたが、先祖代々引き継がれてきた扇田を守るという使命感と、農家の養子としての責任感から農業をやることを決意しました。
扇田は、熊本県名水百選にも選ばれている山吹水源からの水が最初に流れ込む水田。食の安全の関心と自然環境の恩恵から、無農薬、無化学肥料での栽培を決意しました。
消費者の食の安全・安心に対する関心の高まりや、米価の下落を見すえた対策としても、今後の農業のあり方と考えています。
全国棚田百選に認定されている扇田は、最高ランクの「環境特A地区」にも認定されています。その自然観環境の保存はもちろん、景観を維持するため、人工物の設置も控えています。例えば、水田の周辺にガードレールがあるのですが、それも茶色に塗り替えました。

 有機栽培の苦労と棚田の保全

子供達を招いての田植え体験の画像試行錯誤しながら有機栽培を行っています。中でも大変なのが雑草対策です。扇田は傾斜が急な上、範囲も広大。あぜの草は刈っても刈っても伸びてきます。
水田内の除草も大問題。そこで、既製の牛の毛取り器具に約2mの竹の柄を取り付けたオリジナルの草取り器具を作りました。これで水田の中をかき混ぜると、草が浮き上がってくるんです。作業効率がアップしたのはもちろん、妻も腰を曲げずに作業ができると喜んでいます。
私は山吹水源から扇田までの約1.8kmの水路を、責任者として管理しています。水路は大部分が地面を掘っただけの土水路ですから管理は大変です。台風の前や大雨の予報が出れば水源まで行って水を止めたり、その後に壊れた個所の点検や応急修理も行ったり。毎年の田植え前にも、水路に積もった落ち葉や土砂を取り除くなど、整備と清掃が欠かせません。
また、本年度から始まった農林水産省が取り組む「教育ファーム推進事業」で農業体験者(小学生への田植え及び稲刈学習)の受け入れを実施しています。さまざまな活動を楽しみながら、地域の活性化に貢献していくことができればと思っています。

今後の取り組み

棚田全景画像「食は人を良くするものでなければならない」が私のモットー。現在、農産物や農産物加工品に「有機」を表示できる「有機JAS認証」の所得を目指し、夫婦で猛勉強中です。

産山村は、空気が良く、水がおいしく、緑豊かな場所。鳥のさえずり、川の聞きながら農作業ができることは非常にぜいたくだと思っています。
産山村から阿蘇全体に目を向けてみると、阿蘇の雄大な草原で草をはむあか牛の姿や、四季おりおりの美しい自然など、次世代に引き継いでいかなければいけないすばらしい風景が数多くあります。
私はその中にあって、産山村で有機栽培を続け、扇田の景観保持と生態観察をしながら、村のシンボルとして後世に伝える取り組みを行っていきたいと考えています。今後は、今の自然環境を写真で記録したり、郷土の文化、歴史の探求もできればと思っています。

  • このページの原稿と写真は公益財団法人グリーンストック発行「草原だより Vol.37」より抜粋いたしました。
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