井 俊介

小田 翼さん近影

大草原の恩恵を受けて育つあか牛おいしい肉を消費者に届け畜産農家を盛り立てたい

プロフィール

井 俊介(い しゅんすけ)さん/昭和55年、旧合志町生まれ、熊本市育ち。平成22年に熊本日日新聞社印刷局を退職し、妻・ゆりさんの故郷、産山村へ移住。家業のあか牛の繁殖・肥育を継ぎ、日々牛の世話にいそしむ。
ゆりさんの両親、祖父、娘2人の4世代で産山村田尻に在住。長女は陽向(ひなた)ちゃん、次女は水輝(みずき)ちゃんと、名前は産山の自然から取ったとか。

きっかけ

熊本市生まれで会社員の家庭で育ち、私自身も会社員でした。産山で畜産と民宿を営むのは妻の実家です。
状況が変わったのは3年ほど前です。もともと家を継ぐ予定だった義兄が、埼玉で獣医として独立。産山には戻らないことになり、後継者がいなくなりました。少しでも手伝ってきたせいか、畜産も民宿も、誰も継がないのはもったいないという思いが強くなり、私たち夫婦が産山に戻ることにしました。両親に報告すると、「産山に行くなら養子になって覚悟を決めろ」と言われ、一層、決心を固くしました。
産山に来てからは、健康的な生活が送れています。また自然も豊かで、夏の過ごしやすさは熊本市内とは比べ物にならないほどですね。

試行錯誤の連続

牛舎での作業の様子を写した写真我が家では、男性は畜産と米作り、女性は民宿と食事処の切り盛りを担当。これまでは、子牛を買い付け、肉用牛として販売するまでの肥育が主でしたが、繁殖も始めました。昔は繁殖・肥育の両方に携わっていたそうですが、やはり人手の不足でしばらく止めていたとか。最近では、他県からの子牛の買い付けも多く、価格も上がってきています。できるだけコストを抑えるためにも、繁殖に力を入れていきたいですね。
収穫後のワラも牛に食べさせるため、良いワラを取ってその年のコメ作りは終了。牧草やワラを食べた牛の糞から堆肥を作り米作りに生かす・・・という循環型農業を行っています。

手伝いに来ていた頃は「なぜ後継者がいないのだろう」と思っていましたが、実際に中に入ると逃げ場がありません(笑)。とくに畜産は生き物が相手の仕事。365日、毎日エサを与えなくてはなりませんし、1日見なければ牛たちの状況が把握できません。休みが欲しいと思うこともありましたが、健康な牛を育てるためには、休んでいられないと実感しています。

今後の展望

草を食べてのびのび育つ牛は病気に強く、肉質も脂身が少なく味わい深い。年配の方からは「昔の牛肉の味がする」と言われるほど、牛肉本来のおいしさが味わえます。それも草原のおかげです。民宿や食事処を営み、お客様から「おいしかった」の言葉が聞ける一方、いい牛を育てなければと身も引き締まります。
阿蘇の草原の維持と持続的農業が「世界農業遺産」に認定されました。代々続けてきたことが世界に認められましたが、後に続く私たちはそれ以上のことをやらなければと思います。
「農業遺産認定」を生かすことで利益を上げ、若い人たちにアピールし、後継者不足の問題もクリアできればと考えています。
あか牛をまだ食べたことがない方は、ぜひ1度口にして欲しいですね。食べていただくこと、また味を知ってもらうことが、農家の応援になり、阿蘇のためにもなります。私たちも牛を大切に育てることで、阿蘇の大草原を守ることにつながると肝に銘じ、自然のサイクルにのった畜産を絶やさずに続けて続けていくつもりです。

  • このページの原稿と写真は公益財団法人阿蘇グリーンストック発行「草原だより Vol.58」より抜粋いたしました。
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