北里 洋子

北里洋子さん近影

食の大切さとありがたさ、昔の日本の「農」の良さを料理を通じて伝えたい

プロフィール

北里 洋子(きたざと ようこ)さん/昭和20年、阿蘇郡小国町生まれ。
小国町商工会認定菊芋料理研究家、TAO Whole Earth料理教室主宰。久司道夫認定国際マクロビオティック料理講師を経て、現在、TAO食育菜園で無農薬自然農を実践しながら「医食農同源」をコンセプトに食エコロジーを追求している。著書に「北里洋子の元気が出る菊芋レシピ」。

きっかけ

daichi_85私は30歳を過ぎるころまで専業主婦でした。何かを始めたいと思っていた時に、昭和30年代に合成洗剤が登場し、川の水の汚染が問題になりました。自然が変わっていく中で、子どもたちにも変化が出てきていることを感じ、主婦時代に身に付けた料理で、食を通じて教育ができないかと考えたことが、現在の活動に至ったきっかけです。

私たちが基準としているのは”命の共存”。子どもたちには、畑に入る前に「人の迷惑になることはしない」「そこに住んでいる生物を殺さない」ということを約束してもらいます。もし、畑に蛇がいたとしたら、邪魔者としてみるのではなく、「蛇が生きていける生態系が保たれている」ということに気付いてほしいのです。
「TAO塾」の名前の由来を聞かれた時には、「T=足るを知る A=ありがとう O=おかげさま」といっています。「もっと食べたい、もっと欲しい」では際限がありません。畑で種まきの体験をする時に話しているのは、種を3つ蒔く理由です。一粒は空を飛ぶ鳥のために、一粒は大地の虫のために、そして一粒は人のために蒔くのです。

命を丸ごといただく

指導中の料理教室の画像私の料理教室では、食材は野菜を中心に、皮ごと調理する「命をまるごといただく」ことが基本。マイクロビオティックというと難しく感じてしまう方もいるかもしれませんが、昔の日本では当たり前だった健康に良い食事です。そのことが、次の命を育てる方にこそ、知ってほしい内容だからです。

私が料理教室で必ず話すのは「何からどうやってできたものかちゃんと分かるものを食べましょう」ということ。パックに入った出来合いのポテトサラダではなく、丸くごつごつしたジャガイモをゆでて、すりつぶしたものであれば、何よりも安心して食べることができるはずですから。

家族で食卓を囲まずに、一人で食事をとる「孤食」という現象が問題になっています。やはり、家族みんなで食事をしながら、テーブルに並ぶ料理について話すことはとても大切な時間だと思います。例えば、お母さんが何をどんな風に料理して作ったのかを子どもに説明してあげることで、命をいただくということが分かりますし、食べることのありがたさも伝わるのではないでしょうか。

今後の夢・目標

野菜を持ち上げる写真私は今年65歳。現在、「TAO塾」で、念願だった研修スペースや宿泊施設を備えた農場を阿蘇市に建設中です。農業を通じて、「人の生きる力」を感じる場所として、幅広くいろいろな方々を受け入れて行ければと考えています。

農場には、調理施設も設け、料理教室も開催していく予定です。より「農」に近い場所で料理を行うことで、命の流れをいただき、私たちが生かされているということに気付いてもらい、たくさんの人たちに食の大切さとありがたさを伝えていきたいと思います。それは、シンプルに日本の食の原点に立ち返るということかもしれませんね。

  • このページの原稿と写真は公益財団法人阿蘇グリーンストック発行「草原だより Vol.45」より抜粋いたしました。
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